東京都子供の心診療支援拠点病院事業

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「第5回 子供の心を考える都民フォーラム」より(抜粋)

 第5回 子供の心を考える都民フォーラム「現代の子供が抱える心の問題〜発達障害とひきこもり〜」の“第1部 講演会”における都立小児 総合医療センター近藤医師の講演内容をご紹介します。
 「よろしくお願いいたします。ご紹介いただきました近藤と申します。
 まず、ひきこもり状態を来す精神医学的な問題について、少しお話ししたいと思います。ここでは、同年代の人たちと出会ったときの孤立的な行動の一貫したあらわれ、みずから同年代の集団から距離をとるという状態が、どんな精神医学的な問題で起こるかということをまずご紹介します。

 DSM−Wというのは、アメリカ精神医学会がつくっている国際的な診断基準、ICD−10というのはWHO、世界保健機構がつくっている診断基準ですが、こういう診断基準の中にも、いろいろな精神医学的問題によって社会的ひきこもりが起きる場合があるという記載が出てまいります。例えばDSM−Wでは、自閉症、分離不安障害、社交恐怖。社交恐怖というのは、日本語では対人恐怖のほうがなじみがいいと思います。後でたびたび出てくると思いますけれども、社交恐怖は対人恐怖と理解していただければ結構です。それから、うつ病などでひきこもりが起きるという記載がございます。WHOのICD−10でも、自閉症、それから分離不安障害などなど、ここでも社交恐怖、それから心的外傷後ストレス障害、PTSDでもひきこもりが起きる場合があるというふうに書かれています。これをご覧いただくと、ひきこもりというのが、かなりいろいろな精神医学的問題で起きる場合があるのだということがご理解いただけるかと思います。

 それから、「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」が厚生労働省から2010年に公表されています。これは3年間の研究の成果として最後、出されているものですが、私どもがひきこもり状態にある若者の精神医学的診断について調査をしておりますので、それを少しご紹介申し上げます。
 この「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」というのはインターネットで検索すると、70ページほどの全文が出ますので、ご関心のある方はぜひご一読いただきたいと思います。
 このガイドラインでは、ひきこもりを、「さまざまな要因の結果として社会参加を回避して、原則的に6カ月以上にわたっておおむね家庭にとどまり続けているような状態を示す現象」というふうに定義して、この定義を満たす方たちについて調査をする、あるいはこういう状態を来している方たちに対する支援について記載するということになっています。最初にご紹介した、みずから同年代の集団から距離をとるという、従来から用いられてきた社会的ひきこもり、対人関係からのひきこもりよりも、日本でつくったガイドラインはもう少し重い状態の方たちが対象になっているんだろうと思います。

 ひきこもりケースの精神医学的背景はかなり多様です。これは私どもの調査ですが、岩手県と石川県、さいたま市、和歌山県、山梨県の精神保健福祉センターで相談を受け付けたケースを対象にしています。ご家族からの相談が圧倒的に多いわけですけれども、337件のうち、本人に会うことができたのが187件、半分ちょっとです。この方たちについて診断の作業をしております。かなり厳密に細かくやっていますが、それを大きく3つのグループに分けて集計するという方法をとっています。

 これはお手元の資料にも入っていますが、第1のグループは、精神科的な薬物療法を必要とするだろうと判断された方たちです。診断名としては統合失調症とか、気分障害、うつ病ですね。それから不安障害、対人恐怖などです。こういう状態を示している方たちは薬物療法で改善する可能性があります。これを第1のグループとしました。この調査のフィールドになっている精神保健福祉センターというところは、精神科の診療はしていないところが多いので、医療機関に行って薬物療法を受けていただくと楽になると思うとご説明して、診療所や病院に行っていただいたりすることになります。
 それから第2のグループは、今日のテーマである発達障害を背景にしている方たちで、そのことを踏まえた支援が必要になってくる方たちです。第3のグループは、性格的な問題とか、神経症的な傾向が中心で、薬物療法は使わずに心理的・社会的な支援が中心になるだろうと判断されたグループです。

 これは診断と援助方針とを踏まえた分類ですけれども、3つのグループに分けてみると、ちょうど3分の1ずつ、これも冒頭のご挨拶であったとおりです。どうしても医療機関で薬物療法を受けていただきたい方が3分の1、それから発達障害の特性を踏まえて支援する必要のある方たちが3分の1、心理的・社会的な支援が中心になってくる性格的な問題を持った方たちが3分の1ぐらいというような分類になります。今日この後お話ししていくのは、発達障害を中心にした第2のグループの方たちのことです。

 今お話ししたのは、ひきこもっている方たちの精神科診断に基づいているわけですが、ひきこもり問題というのは、本人の精神医学的問題だけで起きるわけではないだろうというふうに多くの人たちが考えておりまして、私もそういうふうに考えています。

 ひきこもり問題の背景要因としては、生物的な要因、それから心理的な要因、社会的な要因というふうに分けて考えます。生物的な要因と申しますのは、例えばさっきの統合失調症などがそうですが、生物的基盤の明確な精神疾患があって、それがひきこもりの原因になる場合があります。例えば統合失調症とかうつ病などがそうですね。それから、もともと生まれつきの発達のゆっくりな方とか、発達の偏りのある方などもひきこもりの原因になる場合があります。今日お話しする発達障害は、この部分のことになります。

 それから、本人の心理的な要因がひきこもりの主な背景になっている場合があって、不安感であるとか、恐怖感であるとか、おびえの気持ちであるとか、とても傷ついた状態でいらっしゃるとか、希望が持てない心境に陥っているとか、自己否定的な気持ちが強まっているとかというような心理的な要因です。

 ここまでは本人の持っていらっしゃる要因ですが、本人を取り巻く環境が要因になる場合もございます。例えば家族状況がどんなふうになっているかとか、友達との関係はどうだったかとか、それから学校に行けなくなるところからひきこもりが始まるような場合には、当時の学校の環境はどうだったんだろうかなどということも重要な視点になりますし、仕事に行けなくなるところからひきこもりが始まる方は、当時の職場の状況はどうだったんだろうかなどということも重要な視点になります。

 社会的要因の中でも、もう少し大きな視点もありまして、例えば文化的な特性。これは例えばなんですが、成人した子供と親御さんが一緒に暮らすことが比較的多い国と、とにかく成人すれば家を出るだろうという国や地域があって、そういうことでも問題のあらわれ方が違うんじゃないかという指摘がございます。ちょっと荒っぽい言い方かもしれませんが、成人した子供がご家族と一緒に暮らすことが多い国ではひきこもりが起きやすくて、とにかく家を出すんだという、家を出るんだという国では、むしろひきこもりより若者のホームレスの問題が多いとか、そういう問題のあらわれ方が違うんじゃないかという視点です。これは文化的な特性。

 それから、社会経済状況も関係しているだろうと言われています。例えば、今は若者の雇用が非常によくないので、働けない、働くチャンスがなかなか巡ってこないということが、ひきこもりの要因になっていやしないかという視点です。

 ざっとお話ししましたが、本人の生物的な要因、それから心理的な要因、本人を取り巻く社会的な要因というふうに分けて考えることができて、そういう意味ではひきこもりの背景要因というのはかなり幅が広くて複雑です。それから、この3つの要因が絡み合って1ケースが形成される場合もあります。例えば、もともと発達が少しゆっくりな方とか、発達に偏りのある方がいらっしゃったとして、若者の雇用がとてもいい時期だったとすると、何らかの仕事についておられたんじゃないかと思うんですが、今は若者の雇用がよくない、働きたくても働けない。それで何年も何年も求職活動をしているうちに、かなり自信を失ってしまって、すっかり希望が持てない心境に陥って、自分は何をやってもだめなんだという心境に陥ってひきこもっていくなどということがありますと、これは生物的な要因と社会的な要因と心理的な要因が全部絡み合って1ケースのひきこもりが形成されることになります。ですので、背景の要因を分けて考えることも大事ですが、もしかすると幾つかの要因が絡み合って1ケースが形成されているかもしれないという見方も大事になってきます。

 ここまでで一旦まとめますと、ひきこもりの背景というのはかなり複雑ですし、いろいろなケースがありまして、1ケース1ケースをよく見ていかないと、どうしてひきこもりが起こっているのか、どうすると解決していくのかということが、なかなか見えてこないということがいえます。ひきこもりというのは大体こういう問題があるんだろうと決めてかかるのが、あまりよくないと思います。いろいろなケースがあるというふうに理解しておくべきだと思います。

 この後は、発達障害を背景にしてひきこもっている方たちのことを、少しお話ししてまいります。まず、発達障害のことを簡単にご説明しておきます。これは厚生労働省の資料で、厚生労働省のホームページから出てきます。発達障害者支援法において、発達障害は、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能障害であって、その症状が通常低年齢において発現するものというふうに定義されています。この黄色いところが知的な遅れを伴う知的障害ですね。ここが自閉症やアスペルガー障害を中心とした広汎性発達障害。ここが注意欠如多動性障害。ここが学習障害、読み書き、計算といった領域に特異的に不得意さを持っていらっしゃる方、LDと呼ばれている。

 今日この後は、ここの広汎性発達障害を背景にしてひきこもっている方のことを話していきますけれども、知的障害のことも実は重要です。特に軽度の知的障害、IQ70台ぐらいの、正常との境界ぐらいにある軽度の知的障害を持った方が、そうと気づかれずにずっと普通の学校生活を送ってやっていくうちに、なかなか人と同じようにできない体験を積み重ねて、それで思春期、青年期に至ってすっかり自信がなくなって、ひきこもっておられる。実は本人は能力的に少しハンディキャップを持っているということに、これまで気がつかれてこなかったなどという事例が少なからずあります。この後、広汎性発達障害のことを中心に話しますが、実は軽度の知的障害の見逃し事例というのが少なからずあるということをこの機会にお伝えしておきたいと思います。

 広汎性発達障害ですが、これは自閉症スペクトラム障害という言い方もございます。3つの基本特性があります。1つはコミュニケーションの問題。これは意思伝達、自分の意思を伝えること、それから人から伝えられていることを理解すること、その投げるほうと受け取るほうと、両方の問題があります。

 それから社会性対人関係の問題。これは、よく周囲の状況や相手の意図が読めないというふうに言うわけですけれども、発達障害というのは、何も発達障害を持っていると悪いのかというと、決してそんなことはありませんで、これはデメリットになる場合もありますけれども、むしろその特性を生かして成功していらっしゃる方もたくさんおられて、周囲の状況や相手の意図が読めないというデメリットは、これが長所になる場合もあって、それは周囲に流されずに自分のペースを貫けるという長所として、その長所を生かして生活していらっしゃる方もたくさんおられます。

 3つ目は、反復的な行動とか興味の限局、興味の偏りなどという特徴なんですが、反復的な行動というのは、同じことを繰り返す。興味の限局というのは、ご自分の興味のあることがすごく狭くて、あることに関してすごく興味があるし、よく知っているんだけれども他のことになるとあまり興味がない、よく知らないなどということが起きるわけですが、これも長所になる場合は、変化の少なさとか人が飽きてしまうような単調さをあまり苦にしないという長所になりますし、とにかく粘り強い。それから、興味のあることに関しては非常に詳しいといった長所になる場合があります。
 もしこういう長所だけ集めますと、周囲に流されずに自分のペースが貫けて、ある分野に関しては非常に精通していて、とにかく粘り強く、人ができないぐらいの努力を続けることができる人ということになりますので、誤解を恐れずに言うと、研究職の方とか、それから職人、何か物をつくる仕事をしているとかという人たちは、もしかすると少なからずこういう特性を持っていらっしゃらないとできないかもしれません。ですので、発達障害は必ずしも問題点ばかりでなくて、この特性を生かして成功している方が、世の中には実はたくさんいるということを申し上げたいと思います。

 でも、こういう特性のために生きづらさを抱える方たちがいらっしゃることも事実です。こういう特徴を背景にしてひきこもっている方たちに特徴的なことを、いくつかまとめてみたのがこのスライドですが、まず1番、他者の意図とか会話とかを理解することとか、今どんなことが起きているという状況とか文脈を読むことが苦手だったりするので、2番、今自分が周りからどう見えているかとか、今自分はこの場でうまくやれていないんじゃないかとか、私は疑心暗鬼というふうに言うのがいいんじゃないかと思っているんですが、常に今自分は大丈夫だろうかという心配、疑心暗鬼の状態におられて、これが対人恐怖、人からどう見られているのか怖いというようなことに結びつきやすいんじゃないかと考えられます。

 それから3番ですが、今後のことを具体的に想像できない方がいらっしゃって、これが支援するときに難しい場合があります。私たちはひきこもり状態にある方に会ったときに、これからどういうふうになりたいですかということをお尋ねするんです。それで、本人がこんなふうにやっていきたいと言ってくださると、そこに向かって一緒に考えていくことができるので支援しやすくなるんですが、広汎性発達障害の方たちの中には想像することが苦手な方たちがおられて、今後どんなふうにしていったら、どうなれるだろうかという想像ができない方がおられて、これからどうしたいかというご質問に答えられないというんでしょうか、想像できない方がいて、これは支援の難しいところです。

 それから、過去と現在と将来を連続的に捉える、過去がこうであって、今こういう自分がいて、なので将来はこうできるかもしれないとか、こうなれるかもしれないとか、過去と現在と将来を続けて連続的に捉えるということが苦手な方もおられて、先のことが想像できない方もいらっしゃるし、こうなりたいとおっしゃる希望がかなり飛躍しているというんでしょうか、突飛な希望をおっしゃる方もいらっしゃって、これも難しいところです。

 それから5番ですね。過去にこんなふうにうまくいったとか、過去にこんな不快なことがあったとかという、過去の出来事にかなりこだわる方がおられて、これも支援するときの難しさの一つです。例えば、これは誰でもそうでしょうけれども、過去に精神科の病院に行って嫌なことを言われたとかということが一度でもあると、もう二度と病院には行きたくないということを、かなり頑なにおっしゃったりする方もいらっしゃいます。

 それから6番。新しい体験とか、何か新しいことを始めるとか、それから新しいことを始めるときにはどうしても予期せぬこと、想像の範囲を超えることが起きるわけですけれども、新しい体験とか想像の範囲を超える予期せぬ出来事に対して非常に抵抗感の強い方が広汎性発達障害の特徴を持った方の中には多い。ですので、新しいことを始めるというのが私たちの想像以上に、本人たちにとっては大変だということになります。

 ですので、7番。むしろ新しいことを始めて、想像できないことに直面して、すごく怖い思い、不安な思いをするよりは、今の生活パターンを続けていきたいとお考えになる方もいらっしゃいます。

 それから、ちょっと性質が違ってきますが、8番。周囲の動きとか流れが読めないという問題を抱えておられる方もいらっしゃって、例えば、すごく人混みの中を歩けないとか、スクランブル交差点みたいに四方八方から人が来るところは動きが読めないので歩けないとか、対面通行の道路が渡れないとか。対面通行の道路をご自分がどうやって渡っているか、お帰りにちょっとおやりになってみるといいと思うんですが、右から車がどのぐらいで来て、こっちから自転車が来てというのを、右見て、左見て、多分一瞬で判断して、すっと渡ったり、ちょっと待ったりするんだと思うんですが、そういう物の流れの動きが読めないので、立ちすくんでしまうなどということがある方もいらっしゃいます。それから、すごく道に迷いやすい方もいらっしゃいます。物の動きの流れが読めないとか、すごく道に迷いやすいなどということがあると、それだけで外出することがすごく苦痛になりますので、そういう方もいらっしゃいます。
 広汎性発達障害と言われる特性を持っておられてひきこもっている方たちに比較的共通するのは、このようなことがございます。

 あと、人によってまたいろいろありまして、主に感覚過敏の問題で社会的な場面を回避している方もいらっしゃいます。感覚過敏というのは、耳の聞こえがすごく敏感だったり、物のにおいにすごく敏感だったり、刺激の強いものを見るのがすごくつらかったりという特徴です。それから、1つ飛ばして一番最後ですが、運動の苦手さとか、不器用さとかというようなこと、それからさっきありましたけれども、自分の気持ちを人に伝えることなどが難しくて、それで周囲とのコミュニケーションがうまくいかないとか、不器用さのために作業能力が発揮できないというようなことがあって、学校とか職場でいろいろうまくいかないことが繰り返されて、その結果、ひきこもり状態になっている方もいらっしゃいます。

 随分いろいろなことを話しましたけれども、広汎性発達障害を持っている方のひきこもり状態を見ていても、いろいろな方がいらっしゃるというふうに理解していただくといいかと思います。
 広汎性発達障害の特徴を持った方たちというのは、さっきお話ししたようにうまくいく方もいらっしゃるんですけれども、そのことでなかなかうまくいかない方もいらっしゃいます。もともとの発達の問題に加えて、いろいろな精神医学的な問題を合併する方もいらっしゃいます。

 これは10歳から14歳の子供さんのデータですけれども、自閉症スペクトラムの特徴を持っている人の4割ぐらいが何らかの不安障害をあわせ持つというデータです。この社会不安障害というのは対人恐怖のことですね。3割ぐらいの人が対人恐怖も併せ持つ。次は大人の臨床例のデータですが、うつ状態になる人が半分ぐらいいらっしゃる。対人恐怖とか不安障害を持つ方も半分ぐらいいらっしゃるというデータです。ですので、この特性を生かして成功する方もいらっしゃるんだけれども、やっぱりいろいろ苦労をされる方も多くいらっしゃるということだと思います。

 資料の紹介ですけれども、これも厚生労働科学研究の成果として厚生労働省が公表しているもので、「青年期・成人期の発達障害者へのネットワーク支援に関するガイドライン」。これもこのまま入力して検索していただくと、原文がそのまま出ます。これは、青年期以降の発達障害を持った方たちを、どんな機関、どんな専門職、どんな援助者が協力して、どんなふうに支援できるか、その支援を組み合わせて支援して、本人たちがどんな社会参加をしていけるかというようなことをガイドライン化したものです。今もそうでしょうが、まだ大人になった発達障害の方たちの支援のイメージが湧かない援助者は、私たちも含めて、もう少なくないので、そういった方たちにどんな支援ができるかということをイメージしていただくために作られたものですので、これもこのまま検索すると出ますので、ぜひご覧いただきたいと思います。事例が豊富に載っていますので、よろしければどうぞ。

 あと、私はこの後、残りの時間で、予防というんでしょうか、早期支援の話を少しだけしたいと思います。というのは、発達障害の特徴を持った方が青年期に至ってひきこもり状態になる場合があるということを、今お話ししているわけですから、発達障害の特徴を持ったお子さんを養育している親御さんとか、発達障害を持ったお子さんたちを教育していらっしゃる専門家の方たちとかは、どういう子供に気をつけてあげたらいいのかとか、どういう特徴を持った子にどんな支援をすればひきこもり状態に至らずに済むのかということを、当然ですが皆さんは非常に関心を持たれるわけです。ですので、そのことを少しお話ししたいと思います。

 まず1つ、これは私どもの都立小児総合医療センター児童・思春期精神科で入院治療をした6歳から17歳のお子さんたち、ひきこもり状態だったお子さんたちです。一番下のところだけお話ししますが、入院治療を受けたお子さんたちの7割ぐらいがひきこもり状態が改善していて、一旦退院後にひきこもり状態になってしまった人もいるんだけれども、その人たちの何人かは2回目の入院で改善しているとかというデータなんです。そう見ますと7割から8割ぐらいのお子さんが、入院治療でひきこもり状態を解決しているというデータですね。

 今日、後でご登壇いただく先生方もそうですが、青年期以降のひきこもり状態になっている方たちの支援をしていらっしゃる方たちにとっては、これはびっくりするような良いデータです。大人になってひきこもり状態になっている方たちの支援をしていくと、これだけ短期間にこれだけ多くの方が改善するというのは、ちょっとびっくりです。そう思ってこのデータのことを考えてみると、やっぱり若年のケースが治りやすいということが、まず一つあるんだと思うんです。それから、通っていただく通所型の治療・支援よりも、入院という設定がかなり強力なんだと思うんです。その2つのことが合わさって、入院治療でやっているということと、17歳以下の若年の方たちを対象としているということで、かなり治療成績はいいということを、まず一つご報告しておきます。私たちの立場で言えば、こういう児童・思春期の時代の支援を、もっと自治体も国も手厚くやってもらいたいよなという、そんな気持ちも含めてですが。

 それから、これは主に思春期の頃の話なんですけれども、もうちょっと早い時期のことについても考えてみたいと思います。これは、発達障害を持った方の中にも、さっき成功している方もいらっしゃるという話をしましたけれども、発達障害を持った大人の方が相談にいらっしゃるときに、ひきこもり状態になっている方もいるんだけれども、ひきこもり状態じゃない方ももちろんいらっしゃるわけです。ひきこもっていないけれども、職場でうまくいかないとか、家事ができないとか、家庭で家族とうまくいかないとか、いろいろな理由で相談に見える方がいます。ひきこもり状態、発達障害を持った方の中でも、ひきこもっていない方とひきこもっている方がいるので、ひきこもっている方はどんな特徴を持っているのか。
 だとすれば、それはどんな時期にどんな支援ができたのかということを調べた調査なんですが、ひきこもり状態を生じている広汎性発達障害の人の特徴は、まとめるとこんな感じなんです。1つは、自閉症の特徴がかなり目立たない。1番ですね。これはPARSという尺度を使っているんですけれども、得点が低い。得点が低いというのは、誰が見てもすぐ分かるような自閉症の特徴が少ないということです。
 2番が発達歴のことなんですが、小さいときの特徴を調べても、あまり自閉症の特徴が目立たない。けれども、「何でもないものをひどく怖がる」という所見がすごく重要だということを覚えておいてください。
 それから6番ですが、いじめなどの明らかなライフイベントがそれほど多くない。これは、ひどいいじめとか、ひどいからかいを受けて、それでひきこもり状態になる可能性がないかということを考えて調べたんですけれども、そういうはっきりしたきっかけになるようなことがあまり出てこない。だとすると、いじめやからかいを受けないようにということはもちろん大事な視点なんですが、もっとふだんの生活の中で、よくわからないことやできないことがあって困っているという、その可能性を考えるべきだと思われます。
 それから8番。周囲へ迷惑をかけたみたいなエピソードは極めて少ない。9番、学校の先生方に相談機関、医療機関を勧められたりしたことも少ない。

 これをまとめますと、これは自閉症の特徴を持っている方たちなのですが、発達や行動症状は乏しいというか、薄い。あまり外から見て、そんなことで困っている方だというふうには見えない。おとなしくて受け身的な方たちで、周りに迷惑もかけない。けれども、本人は対人関係やクラスの中でわからないことが多くて困っていた。そういう構造が浮かんできます。
 何でもないものをひどく怖がる、この怖がりの所見が大事な所見だというお話をしましたが、これは親御さんに振り返っていただいて、子供のころどうだったかということを伺っているんです。それで親御さんが、うちの子はそういえば、えらい怖がりな子だったよねというふうにお答えになっているわけですが、本人たちに何が怖かったかというのを聞いてまとめたのがこれですが、新しい場面になかなかなじめないとか、引っ越しとか就学とか新しく出会うとかという新規な場面、新しい場面が怖い。それから予想外の対人場面とか、思わぬところに思わぬ人がいると怖いとか、通行人が急に振り向くだけで怖いとか、これは予想外の出来事です。
 それから、人前で話すとか、自分の思っていることを伝えることができないとか、これはさっき基本的な特性で出てきました意思伝達をしなきゃいけない場面が怖い。それから叱責や批判を受けるのが怖い、自分以外の人が先生に叱られているのを見ているだけで怖いという、強い刺激が怖い。

 まとめると、親御さんから見ると何でもないものを怖がる子だった。本人たちからすると、こんなことが怖かったということがわかってきます。目立たないんだけれどもこういう自閉症特性を持った方たち、そういうお子さんを丁寧に支援することが、ひきこもりを予防していく上で大事なんだろうということが一つのまとめかと思います。まずは、苦手な刺激の少ない、安心して過ごせる場面をきちんと保証することが何より大事だと思われますし、あまり訴えてこないんだけれども意外なことでわからなかったり、苦手なことがあったりして困っている可能性があるので、そこを見きわめて、さりげなく手助けができるような、まずはそういう環境をしっかり整えることだろうと思います。

 ただ、これは実際やってみると、丁寧にみていくことの必要性が親御さんたちになかなか伝わりにくかったり、親御さんがそのことを理解していても学校の先生方と足並みがそろわなかったりしやすいようです。もっと目立つ問題を持っていれば足並みはそろいやすいんですけれども、目立たない問題なだけに意外に足並みがそろわないというのが、大きな問題の一つです。

 それから、こういうすごく怖がりで引っ込み思案なお子さんたちと親御さんとの間で悪循環が生じる場合もあります。例えば、過保護になり過ぎて、子供さんが自分で何かできるということが育ちにくいという、一方ではそういうことがあるんですが、もう一方で、無理をさせ過ぎると余計怖がりがひどくなってしまうというのがあって、加減が難しいですね。両方のパターンの悪循環が生じやすい。

 今ずっとお話ししてきましたのは、自閉症の特性があまり目立たなくて、でも怖がりで、苦手なことがいろいろあって、日常生活に困っているというお子さんたちのことなんですが、もうちょっと元気がよくて、人と積極的に関わっていこうとするんだけれども、ちょっとそのやり方が唐突だったり、一般から見るとちょっと変だったりというタイプの発達障害の方たちを積極奇異なタイプと言いことがあります。こういう積極奇異なタイプのお子さんたちも、思春期ぐらいになってきて、どうも自分が周りと比べて変じゃないかということを感じ始めて、それで対人恐怖とかひきこもりが起きるパターンがあるということが言われていますし、実際そういう方もいらっしゃいますので、発達障害をもともと持っていてひきこもっていくパターンが2つあって、その両方のパターンについて気をつけていく必要があるだろうということを申し上げておきたいと思います。

 私が用意した内容は以上です。また後の先生方が、実際の支援のことをいろいろお話してくださると思います。
 どうもご清聴ありがとうございました。」

※本ページ掲載の第5回分に関しては、ブックレットの在庫がなくなりましたので、配布を終了させていただきました

都立小児総合医療センター 医療連携室
電話042(300)5111(代) 内線3195

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