東京都子供の心診療支援拠点病院事業

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「第40回 子供の心セミナー」より(抜粋)

 第40回 子供の心セミナー「ひきこもり・不登校への支援」の“第1部 講演会”における都立小児総合医療センター近藤医師の講演内容をご紹介します。
 「よろしくお願いいたします。
 まず、不登校、それからひきこもりの背景要因について、簡単にご説明しておきたいと思います。
 先ほどもお話がありましたが、不登校・ひきこもりは1例1例いろいろなメカニズムによって生じているので、その1ケース、1ケースにどんな背景があるのかをきちんと捉える必要があります。

 背景要因を考えていくときに、大きく分けて3つに分けて考えてみるとよいのではないかと思われます。1つは生物的要因。たとえば、生物的基盤のはっきりした精神疾患が背景にあって、不登校・ひきこもりが生じる場合がありますし、生来的な発達の遅れや偏りが要因になって不登校・ひきこもりが生じている場合があります。
 次は、心理的要因。不安、恐怖感、おびえ、自尊心や自己愛が傷ついている、自己否定的な気持ちが強まっている、すっかり希望が持てないような心境に陥っている、などといったものです。
 三つ目が社会的要因。家族状況、友達関係、学校でどんな経験をしていたのだろうか、職場でどんな人間関係の中にいたのか、といった視点です。
 それから、社会的な要因には、もう少し広く文化的な状況や社会経済状況なども含めます。たとえば、この数年、若者の雇用状況がよくないので、何年も求職活動を続けた末に、疲れ果てたようにひきこもり状態になっている青年期のケースが増えているように思われます。

 このように背景要因を、生物的なものと心理的なものと環境要因と3つに分けて捉えてみる。特定の視点に偏らずに、できるだけバランスよく捉えることが大事だと思います。今日、この後の三人の方々のお話についても、こうした背景要因のことを念頭に置きなが聴いていただくと、より理解が深まるのではないかと思います。

 いま、この3つの要因に分けて話してきましたけれども、これらが相互に絡み合って問題が形成される場合もあります。たとえば、生来的に知的発達が少し遅れている、IQが70くらいの人がいたとします。そのことに気づかれて適切な支援が提供されている場合には問題は生じないかもしれないのですが、もし、親御さんも学校の先生方もそのことに気づいていなかったり、あるいは、この子はやればできるはずなのに怠けてやらないのだとか、ご家族がきちんとみていないのがいけないのだとか、周囲の捉え方が適切でない場合もあります。これが環境要因、社会的な要因です。本人の持っている力と周囲の認識のズレが生じると、本人は能力以上のことを期待されたり、叱られてばかりだったりして、毎日つらい思いをするかもしれない。それで学校に行こうとすると頭が痛くなったり、お腹が痛くなったりするかもしれない。これが心理的な状況です。

 まとめると、生来的な軽い知的発達の遅れという生物的な要因と、周囲が正しく認識していないという環境要因と、その狭間にあって本人がとても苦しい思いをしているという心理的な3つの要因が絡み合って問題が形成されています。実際の治療・支援を考えるときには、この3つの背景要因にバランスよく目を向けること、その絡み合いに目を向けていくことが必要になります。

 私の話はここまでにした方がよいような気もしているのですが、発達の偏り、たとえば広汎性発達障害と言われるような偏りをもった人が、不登校になったり、ひきこもり状態になったりすることがあります。発達障害は、今とても関心が高いと思われますので、このことを少し詳しくお話ししておこうと思います。

 青年期で深刻なひきこもり状況になっている人の中に広汎性発達障害の人が少なからず含まれているということが、この10年くらいでわかってきました。そうなると、その次には、発達障害をもつお子さんを育てていらっしゃる親御さんが、どのように育てていったら将来ひきこもらずに済むのかを知りたいということになります。それから、発達障害をもつお子さんを療育している人たち、教育している先生方も、どのように関わってあげたらいいかを知りたいとお考えになると思いますので、そのことを少しお話ししたいと思います。

 発達障害を持って青年期になった人の中にも、ひきこもり状態になってしまうような方もいますけれども、そうはならずに学校に行ったり、社会人になっている方もたくさんいらっしゃいます。ひきこもり状態に至らずに青年期を迎えている人と、青年期にひきこもり状態になっている人、同じ発達障害を持っている人たちの中にもその違いがあるので、どんなところが違うのかということを検討した調査のその結果をご報告したいと思います。

 この調査は山梨県の発達障害者支援センターにいらっしゃった16歳以上の知的に高い発達障害をもった方々が対象になっています。ひきこもっていないのに相談にみえる方というのは、たとえば職場で人間関係がうまくいかないとか、そういう相談にお出でになったりするわけです。
 ひきこもり状態になっている発達障害ケースの特徴はかなり明らかです。1番目は「自閉症の特徴が薄い」という特徴です。自閉症の特性をもっているけれども周囲からは見えにくいぐらいに薄い。誰が見てもすぐに気が付くような特徴はあまりはっきりしない、というものです。
 2番目は、子供の頃の発達歴にも誰が見てもすぐわかるような特徴的な発達・行動所見、たとえば言語発達の遅れ、呼んでも振り向かない、くるくる回るなどという自閉症の特徴はあまりはっきりしない。ひきこもっているグループに特徴的なのは、「何でもないものをひどく怖がる」という所見です。それから、「普段どおりの状況や手順が急に変わると混乱する」、これも特徴的です。怖がりは、青年期でひきこもる人たちの小さい頃の発達歴の中ではとくに重要な所見であることがわかっています。  5番目は、「内向的で受け身的なタイプの人が多い」ということです。
 6番目の、「環境要因の関連性が明らかではない」、これはどういうことかと言いますと、ひきこもりや不登校が生じる要因として、いじめを受けたとか、ひどいからかいを受けたとか、何かはっきりしたきっかけがあるのではないかという仮説があると思います。多くの人がそうお考えになると思うのですが、調べてみますと、ひきこもっている人たちの中で、明らかないじめを受けたとか、ひどいからかいを受けたという出来事があまりはっきりしないのです。
 ということは、いじめとかからかいとか、そういう誰が見てもわかるようなエピソードだけではなくて、もっと普段の日常生活の中でわからなくて困っていることがたくさんあるかもしれない、日常生活をしっかり支援していく必要があるだろうということだと思います。
 7番目も、「自閉症に典型的な特徴がそれほどはっきりしていない」ということです。
 8番目は、「周囲に迷惑をかけるとか、問題行動のエピソードが少ない」
 9番目も同様で、「学校の先生方から医療機関や専門の相談機関を学校の先生方から勧められるということが少ない」

 以上、まとめると、「発達行動症状が乏しくて気づかれにくい内向的で受け身的なタイプの人たちが、外から見ている分にはよくわからないのだけれども、本人さんとしては生活の中でいろいろなことで困っていて、それが蓄積していって、思春期・青年期でひきこもり状態に至っている人が多いようだ」ということになります。
 怖がりが重要な所見だということをお話ししましたが、この所見は親御さんから聴き取ったもので、「うちの子は何でもないものをひどく怖がる子だった」という回答をいただいたものです。そこで、ご本人に何が怖かったかを訊いてみるともう少し具体的なことがわかるかもしれないと思って、ご本人さんたちに訊いてみました。 上の4つぐらいは、新しい場面とか、予想外のことが急に起きるとかということが怖いという回答です。「新しい場面になかなかなじめない」「引っ越し」「就学」「新しく人に出会う」「予想外の対人場面」「思わぬところに、思わぬ人がいる」、あるいは「通行人が急に振り向くだけで怖い」と言っている人もいます。自分の予想していないことが急に起きるということが怖い、ということです。

 それから、その次の3つぐらいは、自分の気持ちを話したり、表現したりする場面が苦手で怖いということを言っています。「人前で話すことが苦手」「自分の思っていることを伝えられない」といったもので、「あなたがどう思っているのか、はっきり言いなさい」なんて問い詰められてしまうと、本当にどうしていいかわからなくなって怖い。それから、「叱責されるのが怖い」「自分以外の人がしかられている場面にいるだけで怖い」と答えた人がいますし、「トウモロコシの毛が怖い」とか、よくわからないものを怖がる人もいます。まとめると、「受身的・内向的で怖がりな子が、新しい場面や強い刺激、予想外の出来事を怖がっている」ということになります。

 それから下から3番目に、「自分の感じ方が多くの人と違うことを知られるのが怖い」と答えた人がいます。これは少しタイプの違う回答です。この人は内向的で受身的なタイプではなくて、もともとは積極的なタイプだった人で、やり方が普通の人と少し違う、積極的なのだけれども、場合によっては少しとんちんかんなことをやってしまったするタイプの人です。
 ギルバーグという有名なお医者さんが、「アスペルガー症候群の人の5人に2人は大人になってもひきこもりがちで孤立しやすい、自分が周囲と違っているという気づきによって対人恐怖などが起きやすくなって、積極奇異なタイプの人がひきこもりやすい」と述べていますが、さっきの「自分の感じ方が多くの人と違っているのを知られるのが怖い」と言った人はこういうタイプです。

 ですので、発達障害をもっているお子さんを、先々ひきこもり状態みたいな気の毒なことにならないように養育していこうと思うときには、内向的で受身タイプの怖がりさんを丁寧に育てていくということと、積極的で奇異なタイプの人が思春期になって自分がへんてこだということに傷ついていく、そこをしっかり支える必要があるという2つの経路と支援方針が考えられます。

 内向的で過敏なタイプの人たちを保育園、幼稚園、学校現場で支えていこうとするときには、なるべく外界の恐れが緩和されるような配慮が必要で、安心して過ごせる時間と場所をきちんと保障する、何よりこれが一番必要なことだと思われます。
 あとは、目立たない発達障害だけに、養育者と援助者と学校の先生方と、この三者の足並みがなかなか揃わないことが多くて、そのことにも気をつけてやっていかなければいけないと思われます。

 私の用意した内容は以上です。後のお三人の話につながればと思います。
 どうもご清聴ありがとうございます。」

※本ページ掲載の第40回分に関しては、ブックレットの在庫がなくなりましたので、配布を終了させていただきました。

都立小児総合医療センター 医療連携室
電話042(300)5111(代) 内線3195

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